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東京都交響楽団 プロムナードコンサート No.369|大河内文恵

都響東京都交響楽団 プロムナードコンサート No.369

2016年7月18日 サントリーホール
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by 堀田力丸/写真提供:東京都交響楽団

<演奏>
東京都交響楽団
ミゲル・ハース=ベドヤ(指揮)
須川展也(サクソフォン)

<曲目>
ヒナステラ:バレエ組曲《エスタンシア》 Op. 8a
ファジル・サイ:アルトサクソフォンと管弦楽のための《バラード》 Op.67
(ソリストアンコール)
ファジル・サイ:組曲Op.55より第1楽章

~休憩~
ピアソラ:タンガーゾ(ブエノスアイレス変奏曲)
ラヴェル:ラ・ヴァルス

(アンコール)
ジョン・ウィリアムズ:オリンピック・ファンファーレとテーマ

プロムナードコンサートは「休日の午後、サントリーホールでおなじみの名曲や親しみやすい音楽とともにお過ごしいただく、いわば“名曲の散歩道”」(都響のサイトより)で、チケットも完売していたが、ヒナステラは音楽好きならともかく、誰もが知っている作曲家ではないし、世界初演の新曲もあり、ピアソラも『リベルタンゴ』や『ブエノスアイレスの四季』といった超有名曲ではない。シリーズ・コンセプトに本当にあっているのか?と些かの疑問を持ちつつホールに足を運んだ。

結論からいえば、杞憂だった。作曲家を知らなかろうが、その曲を聴いたことがなかろうが、まったく問題なく楽しめる演奏だったからだ。『エスタンシア』はどちらかというと吹奏楽の曲としてお馴染みの作品である。冒頭から印象的なリズムと和音で迫ってくるはずのところが、ホールの響きに溶け込んでぼんやりしてしまったのは残念だが、第2曲のフルートから始まる抒情的な旋律に身を委ねていると、そのうねりとは別のうねりが押し寄せてきた。内声の和声の動きをありありと聴かせてくれるのだ。さらに、さまざまな楽器による畳みかけるようなリズムが特徴的な第4曲では、勢いにまかせて突っ走るのではなく、ハース=ベドヤはきっちりとカウントを刻みつつ、要所要所で盛り上げていく手法をとった。それによって、爆発的な疾走感はないものの、聴き手が置いていかれることなく爽快感を味わうことができる。

ファジル・サイの世界初演曲『バラード』はサクソフォンの魅力を存分に詰め込んだ作品であった。サックスのメロディーから、朝焼けの空や夜の喧噪、都会的な響きや砂漠の中で1人サックスを吹いているような孤独感といったさまざまな光景が想像された。もう1つこの作品の特徴をあげるならば、サイの祖国であるトルコ風のリズムや旋律であろう。ただし作品全体としては、このような「民族性」に依存することなく、あくまでも1つのパーツとしてうまく組み込んでいるところに彼の匠を感じた。ソリストアンコールのサイの曲も、サイの世界と須川のサクソフォンに酔いしれるに充分なものであった。

休憩後は、ピアソラとラヴェル。こちらは文句なしに楽しめるナンバーが揃えられた。ハース=ベドヤはペルー生まれということもあり、ピアソラは絶品。この曲の演奏では、メインの旋律をピアソラ風に揺らして南米風の雰囲気がつくられることが多いのだが、彼はそれをしない。その代りに、ベースラインでかっちりと枠組みを作り、内声にピアソラのリズムの揺れを組み込む。そうすることによって、「いかにも」ではない「本物」のピアソラ感が生まれている。生まれたときから地元で育った地元のオーケストラではなく、日本のオーケストラにここまでのことをさせたハース=ベドヤと、それに見事に応えた都響に拍手を送りたい。

全体を通して“名曲の散歩道”ではなかったかもしれないが、確実にプロムナードコンサートの趣旨に合致したプログラミングと演奏だったといえる。アンコールは8月に開催されるリオ・オリンピックを祝して、ロス五輪の表彰式で耳馴染みの『オリンピック・ファンファーレ』が演奏された。解放的で祝祭的な響きに、明日への活力をもらった聴き手も多かったことだろう。

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