ヒラリー・ハーン ヴァイオリン・リサイタル|佐伯ふみ

ハーンヒラリー・ハーン ヴァイオリン・リサイタル

2016年6月8日 東京オペラシティ コンサートホール
Reviewed by 佐伯ふみ(Fumi Saeki)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)
コリー・スマイス(ピアノ)

<曲目>
モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ ト長調 K.379
J. S. バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番ハ長調BWV1005
アントン・ガルシア・アブリル:「6つのパルティータ」より
アーロン・コープランド:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
ティナ・デヴィッドソン:地上の青い曲線(「27のアンコール・ピース」より)

 

早熟のヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンは今年36歳。もう、という気もするし、まだそんなに若いのか、という気もする。今回の来日は、3度目のグラミー賞に輝いた『ヒラリー・ハーン・アンコール:27の小品』(2015)の紹介を兼ねており、9日間で東京・横浜・松本・名古屋・兵庫をめぐる全7回のコンサート・ツアー。

前半はバロック~古典の名曲を、後半は20世紀以降でまとめた構成。モーツァルトはピアノのコリー・スマイスにとっても腕の見せどころ。出色のピアニストであることがよくわかる。バッハの独奏曲、とくに緩徐楽章が素晴らしい。腕自慢のヴァイオリストはたくさんいるが、モーツァルト、バッハの緩徐楽章を本当の意味で「聞かせる」ことのできる音楽家はそうはいない。

後半のアブリルはバッハの無伴奏を意識した作曲、しかしバッハと対置されてしまうと饒舌すぎるように聞こえてしまう。コープランドはいかにもアメリカ的な音楽、しかし古典的な風格と均整を備えていて、面白い。 最後のデヴィッドソン、そしてアンコールで弾かれた3曲は、アルバム『27のアンコール・ピース』収録の作品。世界中の作曲家にアンコール・ピース(小品)を委嘱するという大胆なプロジェクトを敢行して世の耳目を集めたハーン。「これほどに異なる“言語”の音楽が集まるとは…」。小品ゆえに作曲家の個性も表れやすく、興味深かった。アンコールの佐藤聰明<微風>では日本的な抒情が強く印象に残る。他2曲は、マーク・アントニー・ターネジの<ヒラリーのホーダウン>、マックス・リヒター<慰撫>。

ハーンの演奏の高い水準については言うに及ばず、堂々と落ち着いたステージ、曲目構成の巧みさ(聴衆の期待と、自身の内発的な欲求、録音と演奏会のビジネスといったいくつもの要求を上手にクリアしている)を見ると、同世代の音楽家の中でも抜きんでた才能と改めて脱帽せざるを得ない。

もし、さらなる注文をつけるとすれば、もっと「いい加減」であってもいいのでは… ということかもしれない。肩の力を抜いた、飄々とした、ゆったりくつろいだ、ちょっと斜に構えた、ユーモラスな、といった形容詞。そういったものが年齢とともに増し加わっていくことを期待している。

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