Books|<戦後>の音楽文化|藤堂清

戦後の音楽文化<戦後>の音楽文化

戸ノ下達也 編著
青弓社 2016年1月出版
3000円+税

text by 藤堂清(Kiyoshi Tohdoh)

この本は読み物ではない。

本の表紙に書かれているとおり「読む辞典」であり、知りたいことはさらに参考文献を読み、深めていく、そのきっかけを与えてくれるものである。
2000年2月に発足した洋楽文化史研究会(会長:長木誠司)の研究成果をまとめた論集の第4編として発刊された。会員31名が分担し執筆にあたった。

時代を追って、5つのブロックにまとめられている。

I.アジア・太平洋戦争、
II.占領期、
III.復興期、
IV.高度経済成長からバブル経済へ、
V. 平成。

それぞれの時代の流れを3~4ページで記載し、時代を象徴する「音楽文化」に関わるキーワードを挙げ、それについてコンパクト(2ページ程度)に解説する。これを通じて時代と音楽の変遷を捉えようとした。クラシック音楽を対象としこの時期を扱った研究はいくつか例があるが、音楽文化全般の動きを記述していることがこの本の特徴である。 一例として「平成」で取り上げられている項目を挙げてみよう。

J―POP、
ゴスペル、
ストリートミュージシャン、
ゲーム音楽、
長野オリンピック、
K―POP、
韓流――韓流はブームから定着へ、
モーニング娘。・AKB48、
動画投稿サイト、
VOCALOID(ボカロ)、
東日本大震災。

クラシック音楽以外を聴くことのない私からみると、どの項目も自分では説明ができないものばかり。読み進めると、それが生み出された経緯や関連する文化活動(テレビ、舞台、CDなど)の状況がわかる。 「長野オリンピック」のようなイベントでは、どのような音楽行事が行われたか説明される。テレビ中継で見ていたはずなのだが、「そういえば、そうだったかな」くらいのあやふやさ。 パソコンの普及に従って拡がった動画投稿サイトやVOCALOIDにしても、いつどのような動きがあり、現在に至っているか知ることができる。

実際に体験した時代でも、そんな具合だから、物心つく前、「III.復興期」以前の記述については、知らないことだらけ。こちらは純粋に知識を得るために読むことになる。

そのときに問題となるのは、政治を中心とする歴史の知識との整合性だが、少ないページに収めたため、音楽文化の背景にある事象への言及は十分とはいえない。 例えば「音楽教室の設立」といったことでも、中産階級の増加により生まれたニーズであったり、それを支える経済体制の変化などにはふれられていない。

以上のような課題はあるが、参照文献が項目ごとに整備されており、この300ページほどの本の裏側にある膨大な情報への入口を示してくれている。

なお、各ブロックの最後、4~5ページに、「戦後のクラシック――声楽」「演歌」のような時代をまたがる話題を扱うコラムがおかれている。こちらは単体での読み物として楽しめる。

<戦後>(8月15日から始まる「戦後」ではなく、それ以前からの継続性を意識させるためにこの表記を用いたとのこと)の幅広い音楽文化の流れを知るための貴重な道しるべとなるだろう。