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兵庫芸術文化センター管弦楽団 特別演奏会|小石かつら

兵庫兵庫芸術文化センター管弦楽団 特別演奏会
メンデルスゾーン 劇音楽 夏の夜の夢

2016年4月9日 兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
Reviewed by 小石かつら( Katsura Koishi)
Photos  by 飯島隆(写真提供:兵庫県立芸術文化センター)

<演奏>
兵庫芸術文化センター管弦楽団
佐渡裕(指揮)
東条慧(ヴィオラ)
檀ふみ(ナレーション・妖精パック)
幸田浩子(ソプラノ)
林美智子(メゾ・ソプラノ)
京都市少年合唱団(合唱)

<曲目>
ヒンデミット:室内音楽 第5番(ヴィオラ協奏曲)op.36-4
メンデルスゾーン:劇音楽『夏の夜の夢』op.61

うまいオーケストラというのは、ヴィオラパートの一番うしろの奏者がたのしく演奏しているオーケストラだと常々信じているのだが、今日の東条慧の演奏は、ソリストというより、一番うしろでたのしんでいる奏者の趣である。どんな一瞬も、彼女の音楽はオーケストラとぴったり一緒に存在していて、その在り方は、オーケストラを「ひとりで支えている」というのが正確だろうか。いくらヒンデミットがバロックの影響を大きく受けているとはいえ、協奏曲というのは、オーケストラから「少し浮きあがって」ソリストが存在するものなのに、である。地に足ついた彼女がつむぎだすのは、ヴィオラという楽器をフルに生かした朗々としたゆたかな音量と、巍然たる佇まい。その風格に、彼女が20代前半だということを忘れてしまう。
山梨出身の東条慧は、中学高校の時期に兵庫県立芸術文化センターのスーパーキッズ・オーケストラに在籍し、高校卒業後から現在までパリで研鑽を積んでいる。佐渡裕のプレトークによれば、スーパーキッズ当時からヴィオラを演奏していたとのこと。昨年の第3回東京国際ヴィオラコンクールで第2位、合わせて聴衆賞、バッハ賞等を受賞している他、各地の国際コンクールでも多くの受賞歴がある。
アンコールには、ヒンデミットの『無伴奏ヴィオラ・ソナタ』の作品25-1から第4楽章。無伴奏ということもあってか、まったく別人の顔で、ヒンデミットの尖ったところを我がものとする奔放な弾きぶりに、器の大きさを感じた。ここは「今後がたのしみ」と書くべきクダリだが、そんな必要はないと思わせる。じゅうぶんである。

さて本日のメインはメンデルスゾーンの劇音楽『夏の夜の夢』。指揮が佐渡裕でナレーションは檀ふみ。ミーハーといっても憚らない顔ぶれだし、実のところ怪訝な気分で待っていた。ところが檀ふみのパフォーマンスのすばらしさときたら、私の想像をはるかに越えるものだった。私は、彼女がマイクを持って舞台に座り、ものすごく素敵なナレーションを聞かせてくれるのだと思っていたのだ。
しかし妖精パックに扮した檀ふみ、舞台の上をぴょんぴょん飛び回るだけでおさまらず、バルコニー席から舞台上空まで駆け回っての大熱演。台本も彼女が大幅に書き換えていて、たのしいことといったら、この上なし。妖精パックの役づくりも、かなりくだけたいたずら坊や風で、指揮をする佐渡にちょっかいを出すやらツッコミをいれるやら、きちんと(?!)関西の聴衆を意識している。客席も遠慮なく大笑いして反応する。オーケストラの演奏会がこんなにおもしろくていいのだろうか、と妙な不安にかられるほど。
単純な日本語訳ではない、現代のわたしたちに向けてしっかりアレンジされた台本は、表面的には純粋でない。とはいえ、内容的には的確だった。夏至の夜の乱痴気騒ぎや、メンデルスゾーン時代のシェイクスピア受容の様相を、妖精パックの語り口で軽妙にくりひろげてくれたのだ。
惜しむらくは抜粋演奏であったこと。そもそも劇音楽『夏の夜の夢』は、序曲、第1番から第12番、終曲という全14曲から成る作品なのだが、この日は、序曲、奇数番号の作品、終曲だった。約半分になっているというのは見かけだけで、実は抜粋されていたのは、ほとんどがセリフ部分の伴奏だ。これほどまで「完璧な」檀ふみの台本と演出ならば、あと一歩踏み込めば、やりかた次第ではセリフ部分の音楽もうまく収まったに違いない。合唱や独唱など規模の大きな作品故、準備との兼ね合いもあるだろうが、あまりに演出がよかったからこそ、本当に惜しいと感じた。

ブリテンのオペラ『夏の夜の夢』を7月に上演する芸文センター。有名ではないブリテンの、有名ではないオペラにもかかわらず、6回公演がほぼ売り切れ状態だという。その公演に向けて、さまざまな催しが、からくり仕掛けのように並べられている。本日の『夏の夜の夢』もそのひとつ。ただ足を運ぶだけで、すっかり虜になる魔力がここにはあるようだ。

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