紀尾井 明日への扉11 藤元高輝|大河内文恵

ふじもと紀尾井 明日への扉11 藤元高輝(ギター)

2016年3月25日 紀尾井ホール
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
藤元高輝(ギター)

<曲目>
ダウランド:ファンシー P6
ソル:『魔笛』の主題による変奏曲 Op.9
スカルラッティ/フィスク:ソナタ イ長調 K.322
タルレガ:ロシータ
伊左治直:熱帯伯爵
ラヴェル/藤元高輝:道化師の朝の歌
川上 統:ジェネット、ペーシュカショーロ(演奏者委嘱・再演)
〜休憩〜
植田 彰:アルクトゥルス国際バレエ団の困惑(演奏委嘱・再演)
タルレガ:メヌエット
スカルラッティ/フィスク:ソナタ イ短調 K.175
ファリャ:ドビュッシーの墓に捧げる讃歌
ヴィラ=ロボス:12の練習曲より第1番 ホ短調、第2番 イ長調、第3番 ニ長調
木下正道:crypte XV(演奏者委嘱・初演)
(アンコール)
リード&メイソン/武満徹:ラストワルツ

輝かしいコンクールの受賞歴を持ち、作曲家から様々な賛辞が寄せられた24歳。いったいどんな演奏を聴けるのだろうかと心を躍らせながら会場に向かった。紀尾井ホールの1階席がほぼ埋まるほどの聴衆が入り、期待の高さをうかがわせる。

コンサートの初めはダウランドの『ファンシー』から。彼の弱音はただ音が小さいというだけでなく、非常に小さな音のはずなのに、こちらの耳に着実に届く。続く『「魔笛」の主題による変奏曲』では、変奏が進んで音型が細かくなればなるほど、藤元の指先は鮮やかさを増す。細かい音型の音1つ1つがきらきらと粒立って聴こえた。

前半には2曲の邦人曲が演奏された。その中でも出色の演奏だったのは、川上統の『ペーシュカショーロ』で、それまでどちらかというと正統的な、あまり道を踏み外さなかったギターの音色が一気に枷を外してぎらぎらと輝き始めた瞬間が印象的であった。

後半の開始は衝撃的だった。それまでのように調弦をおこない、一呼吸おいてからではなく、椅子に座るか座らないかというタイミングでいきなり激しい勢いで曲が始まり、ぐぃっと藤元の世界に引き込まれる。さらに彼の弱音の魅力と圧倒的なテクニックを感じさせる3曲が続いた後に、ヴィラ=ロボスの『練習曲』が演奏された。1つの曲の中でひたすら同じ音型が繰り返されるという意味では明らかに「練習曲」ではあるが、随所にヴィラ=ロボスらしい音遣いが聴かれ、「性格小品」のような趣をみせた。

最後の木下の新曲の前に、藤元は舞台の上に木下を呼び、曲の説明や作曲に対する木下の姿勢などを尋ねた。木下によれば、この曲は武満徹の『フォリオス』を模したもので、全体は5曲(『フォリオス』は3曲)から成り、それぞれの譜面は見開き2頁もしくは1頁でおさまるように書かれている。曲順が演奏者に委ねられているところも『フォリオス』の流れを汲んでいるというが、今回は作曲された順での演奏であった。武満を模しているのはここまでで、曲想は全く異なる。無調で書かれている『フォリオス』に対して、『crypte XV』は、オクターヴで重ねられた音が順次進行することから曲が始まる。このシンプル過ぎる音の動きはいったいどこまで行くのだろうと心配していると、やがて音は拡散してゆく。5つの曲は静・動・静・動と繰り返し、5つめの静の最後で冒頭のオクターヴに似た音型が短い形で回帰して終わる。

今回、邦人曲はすべて作曲家が会場に駆けつけ、演奏とともに紹介された。そのことと直接関連するわけではないと思われるが、全体として邦人曲のほうが音楽が生き生きとしているように感じた。逆に、外国曲は概して小さくまとまっている印象を持った。これらの曲はもっと奏者と聴衆の距離の近い、奏者の息遣いがすぐそこで聴き手に届くような場所であれば、藤元の良さがより伝わったように思える。

才能にもエネルギーにも満ち溢れた藤元が、演奏者としてさらにもう一皮むけたとき、どのような音楽が湧き出てくるのか、今後をさらに楽しみにしたい。

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