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東京フィルハーモニー交響楽団 第99回オペラシティ定期シリーズ|谷口昭弘

TPO_2016_02_omote_ol東京フィルハーモニー交響楽団 第99回オペラシティ定期シリーズ

2016年2月25日 東京オペラシティ コンサートホール
Reviewed by 谷口昭弘(Akihiro Taniguchi)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:チョン・ミョンフン
ピアノ独奏:小林愛実
(コンサートマスター:三浦章宏)

<曲目>
モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番イ長調 K. 488
小林愛実 (ピアノ独奏)によるアンコール
ショパン:夜想曲第21番ハ短調(遺作)
(休憩)
マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調
(アンコールなし)

モーツアルトの協奏曲ではチョン・ミョンフンの弾き振りが予定されていたが、指の故障により断念。第17回ショパン国際ピアノコンクール (2015) でファイナリストに選ばれた小林愛実がソリストを務めることになった。その小林は、第1楽章から細やかにニュアンスに溢れるピアノを聞かせる。禁欲的な均整を狙うのではなく、モーツァルトの溢れるような発想の豊かさを引き出す方向で、生命力がみなぎっていた。 第2楽章では、冒頭の独奏部分から一遍のドラマがあり、オーケストラが入る瞬間までにも、ため息が自然に出てきた。自然な歌心に寄り添う小林は、オケと共演する部分では淡々と進めつつ、独奏パートでは一つ一つ足取りを確かめるように、時間を大切にしていた。後半ではオケのピチカートにソット・ヴォーチェで切々と進めていく様に感服した。 第3楽章はきりりと絞まったオケのアンサンブルに乗った大胆なピアニズム。弾けて輝くパッセージはスリリングだった。

休憩を挟んでのマーラーの「交響曲第5番」、第1楽章は深い呼吸を湛える葬送行進曲。フォルムを一定に保ちながらも、その中で自主性を重んじているような印象を与えられた。ミョンフンはアゴーギクやテンポなど、楽章の中に詰め込められた楽想の一つひとつを解きほぐしつつ、第2楽章への前奏としての位置づけなのか、統一した一つの楽章としての響きがまとまっていた。そして、全編を通すトランペット独奏に圧倒された。 第2楽章には、ドラマが本格的に動き出す感覚をより強く感ずる。旋律の背後に交錯する和声による蠢きをちらつかせながら、しかし一方では、チェロからヴィオラの熟考を迫る部分があった。全体にはモノトーンで濃厚なマーラーを味わった。

ホルンの独奏も見事な第3楽章は、フレッシュなスケルツォ。酔狂な感覚を与えつつも、大げさなジェスチュアで驚かそうということはない。つづく瞑想的な第4楽章では、直線的に延びる美しさを旋律の提示部分で示しつつ、曲想がどんどん展開する部分からは、もっと心の昂ぶりを優先し、一気に聴き手を音の渦の中へと引き込んでいった。 第5楽章は冒頭から対位法の妙技を経て軽やかさをちらつかせながらも、じっくりとした構えは崩さない。一つのパートもおろそかにしないミョンフンの耳の良さを確かに感じさせる。それでいて、終盤に向けての興奮の高まりは忘れたわけでなく、じっくりとした練り上げと直感的なエネルギーの放出のバランスが保たれていた。

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