いずみシンフォニエッタ大阪 第36回定期演奏会|大田美佐子

いずみいずみシンフォニエッタ大阪 第36回定期演奏会
「魅惑のイタリアン&誕生《第五》」

2016年2月6日 いずみホール(大阪)
Reviewed by 大田美佐子(Misako Ohta)
Photos by 樋川智昭

<演奏>
いずみシンフォニエッタ大阪
三ツ橋敬子(指揮)
太田真紀(ソプラノ)

<曲目>
レスピーギ:組曲《鳥》
ベリオ:フォークソングス

〜休憩〜

シャリーノ:電話の考古学
西村朗:室内交響曲 第5番《リインカネーション(転生)》

歴史と対話し、春に繋ぐイタリアの現代音楽

大阪のいずみホールで、いずみシンフォニエッタの第36回定期演奏会を聴いた。15年の歳月を重ねたホールのレジデント・オーケストラは、芸術監督で作曲家の西村朗氏、プログラム・アドバイザーには作曲家の川島素晴氏も加わり、関西に縁があり実績のあるソリストたちで構成されている。近現代のレパートリーを中心とした室内オケの今回のテーマは<魅惑のイタリアン&誕生《第五》>。イタリアで研鑽を積み、拠点を置くなど、イタリアと縁の深い指揮者の三ツ橋敬子、歌手の太田真紀を迎えて、レスピーギ、ベリオ、シャリーノといった20世紀のイタリア現代音楽と西村の新作が披露された。

イタリアはオペラをはじめ、「歌」の国のイメージか強いが、20世紀にはレスピーギやベリオなど、「再解釈」を通して古典と対話し、器楽の分野でも独自の音楽語法を豊かに展開した作曲家も多い。レスピーギ、ベリオ、シャリーノの三人の音楽に共通する点のひとつは、人文主義の国に生まれた、人と歴史に対する彼らの人間味あふれる眼差しである。

バロックの小品を翻案にしたレスピーギの組曲《鳥》では、古典を意識した響きよりも、生命の喜びに弾けたメリハリのある三ツ橋の指揮に導かれ、この名曲がいつになく新鮮に響いた。ファゴット、オーボエ、クラリネットと、ソリストの美しい音色を際立たせつつ、アンサンブルではイタリアのきらめく陽光を思わせる輝かしい響きをたたえた。三ツ橋がコンサート前のトークで語ったように、イタリア各地の気質の違い、暮らしの美学などを実際に肌で感じているその実感が、音のリアリティーとなって結実してくるのだろう、と感じた。

圧巻はベリオのフォークソングス。歌手で夫人のキャシー・バーベリアンにあてて書かれたこの11曲の歌集から7曲を選んだ。アメリカ、アルメニア、イタリア、アゼルバイジャン、と国際色豊かで音楽語法も多彩なフォークソングは、目まぐるしい変化に対応できる奏者を求める難曲。それに、必ずしもすべてが伝承された歌ではなく、アメリカの作曲家やベリオ自身が新しく作曲したものもある。その新旧入り交じったエネルギーが、知性派ベリオの卓越した編曲により「時代を超越する」味わいを醸し出している。ソプラノの太田真紀の柔軟性に富む歌唱技術と、甘美すぎず、愛らしくコケティッシュな魅力にあふれたその歌声は、この作品の魅力を余すことなく伝えてくれた。時に叙情的に、時に叙事的に太田の歌に寄りそった管弦楽も出色の出来。

後半は、タイトルだけでもユーモラスなシャリーノの《電話の考古学》。人の声をコントラバスが担当し、木管、金管、様々な楽器が総動員で、電話にまつわる音響の模写をするのだが、携帯電話、スマートフォンに慣れてしまった私の耳には、今ひとつピンとこない。「考古学」ばりの音の探究の楽しさを、もっと思い切ったデフォルメで表現してもよかったのかもしれない。むしろ、無理を承知で、楽器で電話音を模倣する、奏者の電話とは無関係の身体性の有り様が微笑ましくもユーモラスに映った。

生命力が漲るイタリアの現代音楽を引き継いで、ラストを飾ったのは、西村朗氏の新作《室内交響曲5番リインカネーション(転生)》の初演。2楽章構成で晩秋から始まるこの作品は、死から転生へと魂が向かうというコンセプト。後半では解放されたように、ソプラノの太田真紀によって高らかに『新古今和歌集』から春の詩が歌われた。「浅緑」「今桜」・・・日本の言葉自体のもつリズムがそのままに活かされ、春の像に誘われて、イタリアの景色から会場は一気に日本の春へ。

演奏会前のロビーコンサートではミヨーの《コレットによる組曲》が演奏され、ホワイエはまるで街の広場のような賑わい。聴衆に愛されるレジデント・オーケストラによって、歴史と対話する音楽が春を呼ぶような、考え抜かれたプログラムの演奏会に酔いしれた。

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