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日韓友情『歓喜の第九』合同演奏会|藤堂清

第9Concert Review

日韓国交正常化50周年記念
日韓友情『歓喜の第九』合同演奏会

2015年12月26日 Bunkamuraオーチャードホール
Reviewed by 藤堂 清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<曲目>
ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調『合唱付』

<演奏>
指揮:チョン・ミョンフン
独唱:ホン・ジュヨン(ソプラノ)、山下牧子(アルト)
キム・チャールズ(テノール)、小森輝彦(バリトン)
管弦楽:ソウル・フィルハーモニー管弦楽団&
東京フィルハーモニー交響楽団 合同オーケストラ
合唱:歓喜の第九特別合唱団
新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部(合唱指揮:河原哲也)
東京韓国学校・児童合唱(指導:裵恩卿)
多摩ファミリーシンガーズ・児童合唱(指導:高山佳子)

年末恒例の第九の演奏会、東京近郊だけでも50以上はある。この日に限っても6団体が競合していた。指揮者、独唱者、あるいは第九以外に演奏する曲など、差別化に知恵を絞っているのがわかる。
違いを明確にするという点で、この「第九」演奏会には他とは異なるセールスポイントがある。ソウル生まれの指揮者チョン・ミョンフンが桂冠名誉指揮者の地位にある東京フィルハーモニー交響楽団と、音楽監督を務めるソウル・フィルハーモニー管弦楽団が合同オーケストラを組み、ソウルと東京で第九を演奏するという取組みなのだ。2015年が日韓国交正常化50周年であることを記念しての企画だが、チョンは自分が長年関わって来た二つのオーケストラが<協奏>し、同じ舞台で演奏することで、両国の関係を良くしていこうと考えたのだろう。独唱者もそれぞれの国から二名ずつ選んでいる。合唱はそれぞれの国で編成したが、東京では、高声部に未来を担うこどもたちを充て、東京韓国学校と多摩ファミリーシンガーズの両国の児童合唱が<協奏>した。
もちろん、どんなすばらしい理念を持っていても、それだけでよい演奏ができるわけではない。混成チームでの演奏をまとまりのあるものにしたのは、指揮者チョンの統率力。22日にソウルで行われた1回目のコンサートの後、それほど時間的な余裕もなくこの日をむかえたと想像できる。
第一楽章の初めのうちは、最弱音を無理に求めず、各奏者が楽に弾けるように配慮していた。徐々にペースがでてくると、大胆な強弱を要求するようになり、音楽もいきいきとしてくる。この第九という交響曲も、校訂譜が出てからは、大編成の演奏でも時代楽器を意識したようなアプローチをとる指揮者が増えているが、チョンの音楽は最近のはやりに背を向け、二十世紀後半に行われてきたような方向性のもの。タップリと歌わせ、ホールを響きで満たしていた。第四楽章の独唱、合唱も安定した演奏を聴かせた。
会場の大歓声に応え、最後のコーダ部分が演奏された。このようなアンコール、私は初めてのことで驚いたが、本編よりもスピードアップした追い込みをみせた。
ソウル・フィル、東フィルの楽員が、ハグしたり、握手したりして互いにたたえあっている姿に、今回の企画が成功であったと感じた。
次の課題は、チョン・ミョンフンというカリスマの力なしでも、このような交流を行える土台作りだろう。

(付記)
このコンサートの数日後、「チョン・ミョンフン氏、ソウル・フィル音楽監督辞任を表明」というニュースが流れた。記事からは明確な理由は読み取れないが、いままで彼を通じて築かれてきた二つのオーケストラの関係には影響が及ばないことを期待する。

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