オペラ『金閣寺』|藤堂清

kinkakujiConcert Review

第22回神奈川国際芸術フェスティバル 神奈川県民ホール開館40周年記念 
神奈川県民ホールオペラシリーズ2015
オペラ 「金閣寺」

2015年12月6日 神奈川県民ホール
Reviewed by 藤堂 清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<曲目>
オペラ 『金閣寺』全3幕(ドイツ語上演・日本語字幕付)
作曲:黛敏郎
原作:三島由紀夫
台本:クラウス・H・ヘンネベルク

<スタッフ>
指揮:下野 竜也
演出:田尾下 哲
装置:幹子 S.マックアダムス
衣裳:半田 悦子
照明:沢田 祐二
音響:小野 隆浩

合唱指揮:安部 克彦
副指揮:石崎 真弥奈、沖澤のどか、林 直之
コレペティートル:石野 真穂、中原 達彦、矢田 信子
ドラマトゥルク・字幕:長屋 晃一
演出補:田丸 一宏
所作指導:市川 笑三郎
原語指導:ミヒャエル・シュタイン
題字:武田双雲
宣伝美術:FORM::PROCESS
台本翻訳:庭山由佳
プロダクション・マネージャー:大平 久美
舞台監督:八木 清市

<演奏>
溝口:小森 輝彦(12/5)/宮本 益光(12/6) ※溝口役のみダブルキャスト
父 : 黒田 博
母 : 飯田 みち代
若い男 : 高田 正人
道詮和尚 : 三戸 大久
鶴川 : 与那城 敬
女 : 吉原 圭子
柏木 : 鈴木 准
娼婦 : 谷口 睦美
有為子 : 嘉目 真木子

合唱:東京オペラシンガーズ
管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団

燃え上がる金閣寺を背にし、溝口の美との葛藤は終わる。究極の美として憧れの対象であり、一方で彼の前に立ちはだかるもの、それを焼くという行為によって解放されることを期待して。
オペラは、主人公が意を決して金閣寺に向かうところから始まり、そこに至る道筋を回想し、最後に冒頭の場面に戻って終わる。舞台の奥には「金閣寺」がおかれ、場面によっては隠されることはあっても、常に主人公と対峙し続けている。音楽面でも「金閣寺」のモチーフがオーケストラにたびたび表われ、その存在を示す。歌という点では溝口の役割が圧倒的に大きい。この日歌った宮本は、ほとんど出ずっぱりの中、最後までしっかりと歌い切った。
1950年に放火により焼失した金閣寺、その犯人を主役とした三島由紀夫の小説に基づくオペラ『金閣寺』は、ベルリン・ドイツ・オペラの委嘱により作曲、1976年に初演された。日本初演は1991年で、今回が16年ぶり4回目の上演になる。16年というと長いように感じるが、團伊久磨の『夕鶴』以外の日本人作曲家の作品の再演の機会が少ないことを考えれば、前回の上演と異なる世代の音楽家・スタッフで取り上げられたことは、この作品が今後も演奏される可能性を得たとも考えられるだろう。
音楽面でまず挙げたいのは、下野の指揮。神奈川フィルハーモニー管弦楽団が充実した響きを聴かせてくれた。黛の音楽は、40年経った今聴くと新しさはあまり感じられないが、さまざまな音楽語法を取り込み、抵抗感なく受け止められる。
歌の面で言えば、溝口とともに、彼の影の声あるいは彼を行為へと突き動かす役割を持つ合唱が重要である。今回の舞台では合唱は舞台上には現れず、陰うたの形をとったが、そのためPAが使われ、本来のバランスから外れた部分があった。溝口以外のキャストは、それほど聞かせどころがあるわけではないが、若手・中堅の良い歌手がそろっており、むらがない。
演出面では舞台の美しさが印象に残る。エピソードがはっきりと視覚化されたことも、展開を理解するという意味で大いに助けになった。その一方、聴衆に考える余地、感じるところが残されていないように思えた。
全体としてたいへん力の入った上演であった。このような取り組みが、記念の年のイベントというだけでなく継続されていくことを期待したい。

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