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テレサ・カレーニョ・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ|藤堂清

Concert Review

~エル・システマ創設40周年記念~
エル・システマ・フェスティバル 2015 in TOKYO
テレサ・カレーニョ・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ
開館25周年/芸劇フェスティバル

2015年11月21日 東京芸術劇場
Reviewed by 藤堂 清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
テレサ・カレーニョ・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ
指揮:クリスティアン・バスケス

<曲目>
バーンスタイン:『キャンディード』序曲
カルロス・チャベス:シンフォニア・インディア
ヒナステラ:バレエ『エスタンシア』 op.8から 舞曲
———————-(休憩)——————-
ベルリオーズ/幻想交響曲 op.14
——————-(アンコール)—————-
アブレウ: ティコティコ
ペレス・プラード: マンボ
バーンスタイン: 『ウェストサイド物語』から マンボ
グティエレス:アルマ・ジャネーラ

舞台からこぼれ落ちるのではないかというほど多くの奏者がのっている。彼らは演奏することを心から楽しんでいて、その気持ちを聴衆と共有しようと強く願っている。そういった彼らの音楽への姿勢、聴衆の一人として大いに楽しんだ。

エル・システマは、ベネズエラの青少年音楽教育のシステムとして1975年に設立。「貧困と犯罪からの脱却」を目指したこの活動から、シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ(現シモン・ボリバル交響楽団)が、指揮者グスタヴォ・ドゥダメル(1981年生まれ)が世界へ羽ばたいていった。今回来日したテレサ・カレーニョ・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラは彼らに続く世代のオーケストラとして設立されたもの。指揮者のクリスティアン・バスケス(1984年生まれ)もドゥダメル同様、エル・システマの出身だ。
創設者ホセ・アントニオ・アブレウ博士の「子どもがオーケストラや合唱団で育つことは高潔なアイデンティティをその子にもたらし、家族とコミュニティの模範となるのです。」という言葉、中でも「アイデンティティ」を持てるようにすることの重要性は、40年経った今でも変わっていない。

かれらの演奏は本当に熱い。前半の曲目はリズムの変化があり、多くの打楽器が活躍する。そうはいっても、弦楽器や管楽器に較べれば、登場する機会は少ないのだが、演奏していない時でも体でリズムをとったりと、音楽とともにいられるうれしさが見てとれる。
とくに、メキシコの作曲家チャベスの『シンフォニア・インディア』は、民謡的な要素が取り込まれ、くるくると変わるリズムも楽しい曲。どのパートも統率がとれ、同じ教育システムで育ってきている強みが感じられた。
後半の『幻想交響曲』は、大きなキズがあるわけではないのだが、少し表面的な演奏に終始した。イングリッシュ・ホルン、オーボエ、クラリネットなどの木管楽器のソロは美しかったのだが。
アンコールは彼らのコンサートではお約束なのだろう、ボリビア国旗の色、赤、黄、紺のジャンパーをまとい演奏した。バーンスタインでは客席にも「マンボ」の掛け声を要求したり、曲の途中で他のパート席に移って弾いたりと、舞台上ではじけまくっていた。それを受け、客席も大いに盛り上がった。

今回の日本ツァーのもう一つの目的は、福島県相馬市で2012年5月より始められたエル・システマ式音楽教育との交流があった。原発事故で失われた地域の絆を子どもたちの音楽活動を通じて再構築していこうという試み。相馬市民会館で行われたテレサ・カレーニョ・ユース・オーケストラのコンサートは、相馬での運動に関わっている人々に、勇気と希望を与えてくれただろう。
また、「音楽は社会に何ができるか」の視点から、超高齢社会の日本を考える、高齢者参加のワークショップも開催された。こうした新しい取り組みの今後にも注目したい。

 

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