ジュリアーノ・カルミニョーラ with ヴェニス・バロック・オーケストラ|佐伯ふみ

Concert Review

carmignola2ジュリアーノ・カルミニョーラ
with ヴェニス・バロック・オーケストラ

2015年10月23日   トッパンホール
Reviewed by 佐伯ふみ(Fumi Saeki)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
ジュリアーノ・カルミニョーラ(ヴァイオリン)
ヴェニス・バロック・オーケストラ

<曲目>
ジェミニアーニ:コレッリのヴァイオリン・ソナタ『ラ・フォリア』Op.5-12による合奏協奏曲ニ短調
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲ホ短調RV277『お気に入り』
J.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲ホ長調BWV1042
J.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲ト短調BWV1056
(原曲はチェンバロ協奏曲ヘ短調。マルコ・セリーノによる再構築)
J.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲イ短調BWV1041
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲ニ長調RV208『ムガール大帝』

バロックの両巨匠の音楽を 生気あふれる演奏で

トッパンホールでは2010年に続いて4度目の登場という、ヴェニス・バロック・オーケストラ(VBO)。ジュリアーノ・カルミニョーラとの共演はすっかり定番の人気公演となったようだ。客席はいつもとちょっと違って女性客が目立ち、華やいだ雰囲気。他ホール(紀尾井ホール、三鷹市芸術文化センター)も満員の盛況であったと聴く。

VBOによる冒頭の『ラ・フォリア』。第1ヴァイオリン4人、第2ヴァイオリン3人、ヴィオラ2人がそれぞれひとかたまりになって、立ったまま演奏する。右にチェロ2人とコントラバスのかたまり、中央に、客席に背を向けた形のチェンバリスト、その脇にリュート奏者。盛んにかき鳴らされるリュートの乾いた打弦の音、オリジナル楽器による弦楽器群の軋むような雑味を帯びた響き。ああ、そうだこれがVBOの音だった、と思い出す。
オケの奏者全員が音楽に乗ってうねるように動き、くっきりと明快なアーティキュレーション、活力にあふれて弾むリズム、美しい旋律では奏者たちが笑みを交わして……音楽する愉悦がダイレクトに伝わってくるのが、このオケを聴く楽しみの1つ。
特に低音パートの巧みさと音楽性は全曲にわたって際立っていて、筆者はしばしばチェロのファースト(Massimo Raccanelli)に視線を移した。このあとの曲目でのカルミニョーラとの掛け合いも聴き(見)ごたえ十分。

曲目の組み立てが面白い。冒頭の『ラ・フォリア』をのぞき、バッハとヴィヴァルディという同時代に生きた巨匠ふたりの協奏曲を交互に。プログラムで渡辺和彦氏は曲の複雑な成立過程について丁寧に解説し、この曲目のテーマは「編曲」であろうと指摘している。なるほど。自分の作品をのちに違う形に仕立てなおす編曲。あるいは、両巨匠ふたりの曲想の類似から想像される、影響(借用)関係。そういった共通項を軸に、耳になじんだ曲とそうでない作品を組み合わせ、聴衆に新たな発見をうながす優れた構成である。アーティストの実力は、こうしたプログラムの妙にも表れる。ともかくも、バロックの両巨匠の底知れぬエネルギーと、これでもかと繰り出してくる創意工夫の豊かさを堪能するプログラムだった。筆者は特に今回、ヴィヴァルディがヴァイオリンの技巧を駆使した「器楽の人」であり、バッハは「歌の人」であることを再確認して、感動を新たにした。緩徐楽章でのバッハの旋律はまさに切々たるアリアである。

カルミニョーラの超絶技巧は健在。でも、前半のバッハBWV1042の第1楽章で珍しく音程が安定せず、オケとの連携も、ほんのひと呼吸なのだが、おやと思う間あいがあった。らしくない。この曲のホ長調はヴァイオリニストには非常に弾きにくい調性だそうだ。さしものカルミニョーラも苦労する場面があるのかと思うと、かえって親しみが湧く。しかし第2楽章に入って何事もなかったように持ち直し、後半はもう盤石の安定感。速い楽章の妙技で聴衆を圧倒するのもカルミニョーラだが、緩徐楽章のなんという繊細な歌。ほれぼれさせられる。またぜひ聴かせてほしい、カルミニョーラ&VBOである。

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