草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル K-H.シュッツとB.カニーノ|佐伯ふみ

Concert Review

CRkusatsu草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル
K-H.シュッツとB.カニーノ/マデルナ 甘い夢
2015年8月29日 草津音楽の森国際コンサートホール
Reviewed by 佐伯ふみ(Fumi Saeki)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<出演>

カール・ハインツ・シュッツ(フルート)
ブルーノ・カニーノ(ピアノ)
ウェルナー・ヒンク(ヴァイオリン)
ジークフリート・フューリンガー(ヴィオラ)
タマーシュ・ヴァルガ(チェロ)
大友 肇(チェロ)

<曲目>

シューベルト:「しぼめる花」による序奏と変奏曲 ホ短調 Op.160 D.802
福島 和夫:伽陀 迦盧那
ブルーノ・マデルナ:甘い夢
アルフレッド・カゼッラ:シシリエンヌとビュルレスク
伝ミヒャエル・ハイドン(作者不詳):フルート四重奏曲 へ長調/ニ長調
モーツァルト:フルート四重奏曲 第2番 ト長調 K.285a/第1番 ニ長調 K.285

草津音楽祭の新しいスター

草津音楽祭を代表する音楽家のひとりだったヴォルフガング・シュルツが2013年3月に急逝。寂しくなった草津に、今年、新たなスターが誕生した。シュルツの後継としてウィーン・フィルの首席フルート奏者を務める、カール・ハインツ・シュッツである。

若手・俊英と呼ばれ来日公演もすでに果たしているが、早くも「21世紀最高のフルーティスト」という呼び声も高いとか。確かに!とこの草津でのリサイタルを聴いて、大きく頷いた人は多かろう。確かな技術と豊かな音楽性、バランス感覚と繊細さと覇気。グローバル化が進み、人間も何か平準化していっているようなこんな時代でも、どこかでこういう飛び抜けた才能が育ち、時を得て開花するのだということに感動し、希望を感じる。舞台の立ち姿も華やかでスマート、スター性も充分。

独奏のシューベルト、そして福島作品では、冒頭、音楽に入る、その呼吸が見事で一気に引き込まれる。弱音の美しさ、響きが空間に消えていく「音の終わり」の得もいわれぬ空気。客席の声にならない声――満足の吐息――がますます深く、聴き入る集中の度合いも増していくようだ。

ソロからデュオへ、後半はフルート・カルテットの4曲ヘと進むなかで、シュッツの技量と音楽性をさまざまな角度から見た気がするが、初めての草津という緊張やハードスケジュールの疲れ(短期間にアカデミーの講師と、ソロからアンサンブルまで舞台をこなす)もあるだろうか、総じて破綻なくしっかりとまとめることを念頭においた演奏のように思う。人間性にももう少し触れてみたかったが、それはこれからの楽しみとすべきか。

そのなかで強い印象を残したのが、マデルナの『甘い夢』。これにはピアノのブルーノ・カニーノの存在が大きい。

間もなく80歳に届こうというカニーノ。草津の大ベテランであり、それ以上に、この作品の初演者でもある。孫とまでいかずとも息子の年頃の、今まさに日の出の勢いの若手と対峙して、どんな音楽を聞かせるのだろうか。

臆することなく自分の音楽を展開していくシュッツに対し、いつもの淡々とした、悠揚迫らざる態度のカニーノ。最初はそれが受け身のようにも見えたのだが、しかし、不思議なことにだんだんとカニーノの存在感が増していく。合わせるタイミングでしっかりとソリストに顔を向け、問いかけるような表情で確認する、カニーノの癖はここでも健在。決して、年長者であり初演者でもあるといった、権威的な態度ではない。しかしごく自然に、その場の音楽を主導し、創りあげているのはカニーノなのだった。

音楽は素晴らしい。聴きながら筆者は心の底から感動する。世代を超え、生きてきた環境の違いも超えて、こうして一つの音楽の中で、全身全霊のやりとりができる。そしてまた、若さには若さの魅力とパワーがあるが、年齢を重ねて身体に刻まれた経験と技術と感性は、そう簡単に揺るぎはしない。才能のある若者ならば、共に音楽をすればそれは充分にわかるはず。シュッツはおそらくこの1曲の演奏を通じて知ったに違いない。知ることができる演奏家だからこそ、さらに伸びていくのだろう。

終わって客席から湧きおこった喝采は、シュッツへの喝采でもあったが、間違いなく、カニーノへの尊敬の念に満ちていた。

こんな喝采が聴けるから、草津はいいのである。

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