エマニュエル・パユ&クリスティアン・リヴェ|佐伯ふみ

Concert Review

Pahudエマニュエル・パユ&クリスティアン・リヴェ
~アラウンド・ザ・ワールド~
2015年9月17日 王子ホール
Reviewed by 佐伯ふみ(Fumi Saeki)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<出演>

エマニュエル・パユ(フルート)
クリスティアン・リヴェ(ギター)

<曲目>

ピアソラ:タンゴの歴史
オアナ:ギター独奏のためのティエント
モリーノ:二重奏曲 第3番 Op.16-3
シャンカール:魅惑の夜明け
ヘンデル:フルート・ソナタ ト短調Op.1-2
カーター:スクリーヴォ・イン・ヴェント(フルート独奏)
リヴェ:クラップ
バルトーク(レヴェリング編):ルーマニア民族舞曲

大人の音楽を愉しむ 得がたいひととき

人気者のパユとはいえ、相方は日本ではほとんど無名のギター、そしてこの曲目。それなのに満員の盛況ときいて驚いた。行ってみて印象的だったのは、聴衆の落ち着いた雰囲気と、決して保守的ではない、刺激を愉しむ冒険心。大人の音楽の愉しみ--そんな言葉が心に浮かび、銀座の一等地にあるホールならではの企画と思う。このコンビは2010年にいちど来日公演を果たしている(筆者は未聴)。もういちど聴けるのを楽しみにしていたお客さんも少なからずいた様子。奏者におくられる拍手は温かく、この空間に身をおけることそのものが心地よく感じられるコンサートだった。

オープニングのピアソラでまず、ギターのリヴェの生き生きと弾む音楽性に「耳」を奪われる。最初の音を響かせる、その呼吸でもう、これはすごいと唸らせるのだから、たいしたものだ。つづくギター・ソロの『ティエント』も短いながら起伏に富んだ面白い曲で、リヴェの才気に舌を巻く。一方のパユはまだエンジンが暖まっていない感じで、オープニングでは少々精彩を欠いてリヴェに食われ気味。

当夜は前半と後半に1曲ずつ、正統派クラシックと呼びたいような音楽が配置されていて、前半はここでモリーノのデュオ(後半はヘンデル)。エッジの立った先鋭的な演奏がつづくなか、ここで少し緊張をとき、ほっと息をつく感じ。もちろん、奏者ふたりは気をゆるめず、定番の名曲もフレッシュに、洒脱に聞かせる。このあたりで俄然、パユの存在感が増してきた。

前半最後のラヴィ・シャンカールの『魅惑の夜明け』が、今宵のコンサートの白眉であった。足下の小さな再生装置をパユが操作して、インド音楽特有のうねる持続低音を小さく流す。それに乗って、まるでシタールのようなギター、尺八を思わせる、むせぶような東洋的な息づかいのフルート。ふたりの奏者の超絶技巧と豊かなイマジネーションが、次から次へと変化に富んだ響きを繰り出していく。めくるめく音楽体験。今もういちど聴きたい曲をひとつ選ぶとしたら、このシャンカールだ。

後半のエリオット・カーターのフルート独奏曲は、一転して都会的な、モダンな音楽。「フルートのスーパースター」の呼び名にふさわしい、パユの圧倒的な技量と、ジャンルや西洋・東洋の違いを軽々と飛び越える豊かな音楽性に改めて脱帽。

リヴェが作曲、パユに献呈し楽譜も出版されている『クラップ』。各々洒落たタイトルのついた短い5曲の組曲。当夜の聴きものの一つだが、どうもあまり印象に残らなかった。音楽に変化がないように聞こえ、それぞれの曲のコンセプトが一聴して了解しにくい。非常に凝った作曲であるのはわかる。ここではリヴェの才気が逆に作用しているかもしれない、そんな印象を受けた。

最後はバルトークの大曲で締めくくり。このコンサートは、「音楽を探して各地を巡り歩く」のがテーマだが、バルトークはそれを実地でおこなった音楽家の先輩と言えるだろう。

パユとリヴェ。お互いの才気と音楽性を認め合い、真剣勝負で丁々発止のやりとりを繰り広げる。その深い心の交流と愉悦が、音楽という形で聴衆の心にも伝わってくる。喝采をあびる2人はつねに肩が触れあうほどに近く寄り添い、まるでいたずらを見つけられた仲良しの少年たちといった風情。そんな姿を見るのも微笑ましく、幸せな気分にさせてくれるコンサートだった。

アンコールはヴィラ・ロボスの『花の分布』と、ジャック・イベール『間奏曲』。

[参考]

コンサートで演奏された曲目を含む2人のデュオCD「アラウンド・ザ・ワールド」が、ワーナー・クラシックスより2013年にリリースされている。

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