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紀尾井シンフォニエッタ東京の“パーセル”と“ヘンデル”|藤堂清

紀尾井1東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2016-
紀尾井シンフォニエッタ東京の“パーセル”と“ヘンデル”
~新時代の古楽リーダー、リチャード・エガーを迎えて

2016年4月1日 上野学園 石橋メモリアルホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 青柳聡(写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会)

<演奏>
指揮(チェンバロ):リチャード・エガー
管弦楽:紀尾井シンフォニエッタ東京
ソプラノ:阿部早希子(*)
カウンターテナー:藤木大地(+)

<曲目>
ヘンデル:オラトリオ《ソロモン》 HWV67 より 「シバの女王の入城」
パーセル(エガー選曲):歌劇《妖精の女王》より「ソプラノと管弦楽のための大組曲」(*)
——————(休憩)———————
ヘンデル(エガー選曲):組曲 《水上の音楽》
ヘンデル:
歌劇《リナルド》HWV7 より 「私を泣かせてください」(*)
歌劇《ジュリアス・シーザー》HWV17 より 「海の嵐で難破した小舟は」(*)
歌劇《セルセ》HWV40 より 「オンブラ・マイ・フ」(なつかしい木陰よ)(+)
歌劇《リナルド》HWV7 より 「風よ、旋風よ」(+)
歌劇《リナルド》HWV7 より 「あなたの面差しは優美に溢れ」(*+)

桜の花が春の訪れを告げるのに合わせて開催される東京・春・音楽祭、「東京のオペラの森」としてスタートしてから12年目となる。東京文化会館や石橋メモリアルホールといったコンサートホールだけでなく、美術館、博物館を会場とした「ミュージアム・コンサート」も行われ、オペラ、オーケストラ、歌曲、室内楽など、興味や好みに応じ多様な楽しみ方ができる。

この日のコンサートでは、イギリスの指揮者・チェンバリスト、リチャード・エガーをむかえて、パーセルとヘンデルというイギリスのバロック音楽をとりあげた。
チェンバロ弾きとしてのリチャード・エガー、メリハリのきいた攻撃的ともいえる音楽を聴かせていたが、指揮者としてもその方向性は変わらない。紀尾井シンフォニエッタ東京というモダン楽器のオーケストラの演奏ということも、古楽アンサンブルによるものとは異なる音色やダイナミクスの大きさが、その傾向をより強く感じさせた。

前半はパーセルの《妖精の女王》からエガー自身の選曲による組曲。オペラの流れとは関係なく15曲ほどが続いて演奏される。楽曲のタイトルにあるようにソプラノの独唱が加わる。
ノンヴィブラートで弾いてはいても、音のつやや響きは最初のうちは違和感を感じた。しかし、エガーがチェンバロで通奏低音を弾きながら音楽の骨格を示していくうちに、オーケストラ全体も彼の熱気に反応するようになる。こういう音色のパーセルも悪くない。
阿部早希子は古楽を中心に歌っているソプラノ、パーセルも当然レパートリーのうちだろう。組曲のなかに自然に入り込んでいた。

後半はヘンデル。《水上の音楽》もエガーによる選曲。以前の組曲でいえば第二組曲の間に第三組曲、第一組曲から数曲取り込んだ形、オリジナルがどのような順序であったか決着がついておらず、独自の構成での演奏、今後もありうるだろう。金管が活躍し、祝祭にふさわしいものであった。モダン楽器での演奏はこのような場面では安定感がある。

最後のブロックでは、ソプラノとカウンターテナーによるヘンデルのアリアと重唱が歌われた。ここでは、藤木のテクニックと歌いくちのうまさが目立った。ゆったりした部分でも早いところでも声の響きがやせることがなく、言葉としても聞きとりやすい。
藤木は近くウィーン国立歌劇場でライマンの『メデア』に出演が予定されている。今後の国際的な活躍にも期待したい。

モダン楽器のオーケストラと古楽指揮者という組み合わせ、心配もあったが、結果的には満足のいくもの。エガーの指揮者としての活動からも目がはなせない。

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