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新日本フィルハーモニー交響楽団 ジェイド〈サントリーホール・シリーズ〉第561回定期演奏会|藤原聡 

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2016年9月9日 サントリーホール
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
指揮:上岡敏之
コンサートマスター:崔文洙
新日本フィルハーモニー交響楽団

<曲目>
R・シュトラウス:交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』op.30
同:交響詩『英雄の生涯』』op.40
(アンコール)
同:楽劇『サロメ』~7つのヴェールの踊り

思えば上岡敏之と新日本フィル(NJP)の初顔合わせは2009年4月、プログラムはR・シュトラウスの『町人貴族』と『家庭交響曲』であった。筆者はその演奏を聴いているが、上岡のユニークなアプローチにオケは乱れを見せつつも必至に食らいついて、非常にテンションの高い演奏が成し遂げられていた。NJPが普段は指揮台に迎えないタイプの指揮者、というのが当時の認識。であるから、逆にこれから彼らが定期的に共演していくのならば、非常に面白い「化学反応」が起きるのではないか、などと思ったものだった。

それから7年、遂にその上岡がNJPの「音楽監督」となった。アルミンクの退任以降このオケの同ポストは空席のままであり、ハーディングは「Music Partner of NJP」、メッツマッハーは「Conductor in Residence」という独自のポジション名でそれぞれにNJPを盛り立ててはいたが、その立場は音楽監督に比べると遥かに軽いのは否めない。彼らの元で名演奏を成し遂げたことはしばしばあれど、オケの「基礎力」向上という課題は残ったままであった。そこへ「音楽監督」として上岡敏之。NJPが満を持して上岡に同ポストをオファーしたのは想像に難くない。

前置きが長くなったが、当夜のコンサートは、その上岡が音楽監督のポストに就いて初のコンサートとなるもので、いわばモニュメンタルな一夜である。そのプログラムも、初共演時と同じR・シュトラウス。むろん、狙ったものだろう。

その1曲目は『ツァラトゥストラはかく語りき』。冒頭の序奏は大きなルバートやリタルダンドを駆使した壮大極まりないものとなる可能性が高いのでは、などという想像を巡らせていた筆者にいきなり意外な展開。むしろ音響は抑制気味であり、流れるように、レガート気味に比較的あっさりと進められる。または、最近はハーディングなどの演奏でエッジの効いた音像を聴かせることの多かったNJPの音が柔和である。想像していたのとは違うが、しかしながら逆の意味で上岡らしい一筋縄の行かなさが最初から刻印された訳である。以降も弱音主体、流れを優先して演奏は進められるが、その歌い回しの美しさと繊細さは通例『ツァラトゥストラ~』を聴く際にはあまり意識しなかった要素だ。であるから、例えば<病より癒え行く者>における自然の主題のfffの効果はより絶大であり、あるいは<さすらい人の夜の歌>で真夜中を告げる鐘が鳴り響く箇所の壮麗もいやが上にも際立つというものだ(ちなみに上岡は鐘をステージ上ではなく、客席のP席―パイプオルガン鍵盤の右横辺り―に設置して、そこで打楽器奏者に叩かせていた。その視覚的・象徴的効果は抜群。しかし音自体は総奏に埋もれ気味であったのが惜しい)。総じて、演奏によっては派手なコケおどし的な色彩を帯びてしまうこの曲から別種の美しさを引き出した手腕はさすがと言うべきだろう(ということは大向こう受けは必ずしもしない演奏、ということでもあるが)。

後半は『英雄の生涯』。ここでも同様に冒頭、何の力みもなくしなやかに開始されるが、独特のテンポや音響バランス(例えば<英雄の敵>における批評家を表す木管群)もしばしば聴かれ、やはり一癖も二癖もあるのだ。普通ではない。<英雄の妻>での崔文洙のヴァイオリン・ソロも上手く、とりわけ「妻」がヒステリックにわめき立てるとでも言うべき後半のソロの振り切れ方が秀逸。そして抑制気味の前半から一転して<英雄の戦場>での炸裂する音響は実に目覚しい。こういうコントラスト、音響上の設計が上岡は非常に巧みだ。<英雄の引退と完成>の終結部でのしみじみとした情感の豊かさも特筆されるべき出来栄えである。

これでコンサートはお開き、と誰もが思ったことだろうが、何とアンコールに『サロメ』~7つのヴェールの踊り。就任コンサートのサービスか。そして、この演奏は本プログラムの「上岡色」に必ずしも馴染めなかった聴衆をも一気に掴んでしまうであろうストレートかつ鮮烈な迫力と色彩に満ち満ちていた。ノックアウトです。

それにしても就任1回目のコンサートでこの成果である。今後の上岡&NJPはどこまで進化・深化するのか。大いに楽しみだ。いろいろと引っ掻き回して欲しい。

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