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ハーゲンQ mit イェルク・ヴィトマン|佐伯ふみ

Concert Review

hagenトッパンホール15周年 バースデー企画
ハーゲン プロジェクト2015Ⅳ mit イェルク・ヴィトマン

2015年10月5日 トッパンホール
Reviewed by 佐伯ふみ(Fumi Saeki)
Photos by 大窪道治/トッパンホール提供

<演奏>
ハーゲン・クァルテット

ヴァイオリン:ルーカス・ハーゲン、ライナー・シュミット
ヴィオラ:ヴェロニカ・ハーゲン
チェロ:クレメンス・ハーゲン

イェルク・ヴィトマン(クラリネット)

<曲目>
モーツァルト:弦楽四重奏曲第20番ニ長調K499「ホフマイスター」
モーツァルト:クラリネット五重奏曲イ長調K581
ブラームス:クラリネット五重奏曲ロ短調Op.115

練達の室内楽 トッパンホールの15年の実りを想う

15年の「誕生日」を祝う、ハーゲン・クァルテットの四夜にわたるコンサート・シリーズ。モーツァルトの弦楽四重奏曲『ハイドン・セット』と『プロシア王セット』を三夜で、そして最終夜は『ホフマイスター』にクラリネットのイェルク・ヴィトマンを迎えての五重奏曲。これぞトッパンという室内楽の王道をゆく内容。筆者は都合により中核の弦楽四重奏曲の三夜は聴けず、最終回のみとなった。

おそらく充実した三夜であったことは、冒頭の『ホフマイスター』を聴いてよくわかった。まず全体の響きの柔らかく美しいこと。そして各楽器のバランスの良さ、掛け合いの呼吸の見事さ。練りに練られたアンサンブルが、トッパンホールの15周年を祝して入魂の演奏をしている。

『ホフマイスター』のアダージョが素晴らしく、とりわけチェロの、たっぷりと息を含んだ呼吸、悠揚迫らざる4拍子の刻みが心地よい。第2ヴァイオリンの弱音、ヴィオラの合いの手も、またなんと美しいこと。

五重奏曲のクラリネットは40代前半の覇気みなぎるイェルク・ヴィトマン。作曲と指揮もものする才人で、非常に知的なアプローチが印象に残る。モーツァルトでは一瞬、指揮するしぐさも見せたりして、リーダーシップは十分だが、カルテットを伴奏役に朗々とメロディを鳴り響かせるソリスト然とした態度はまったくなく、あくまでアンサンブルの一員として音楽作りをする。それが時に(例えばブラームスの2、3楽章など)、おそらくこちらの耳になじみがあるせいだろう、カルテットを多少置き去りにしてでもソリスティックに旋律を歌い上げてほしいと思う場面もあった。しかし、しっかりとカルテットのメンバー一人一人の顔を見て、旋律やリズムの受け渡しをしていくヴィトマンの知的な作品理解はとても好感が持てたし、改めてこの2曲の作曲の構造がよく見えてきたのは、得がたい体験だった。

モーツァルトの第2楽章、クラリネットの息の長い旋律が素晴らしい。たぶん、リハーサルよりもさらにテンポをゆっくり取っていて、特に第1ヴァイオリンが早めにテンポを刻もうとするのを敢えて制して、どこまでも伸びていくクラリネット。

それぞれの楽章の終わりで余韻を確かめるような間合いが長い、そのこだわりもヴィトマン独特のものだろう。特に最後のブラームス。余韻を十分に聴き届けたカルテットがふっと気を抜いてもなお、ヴィトマンは身じろぎもしない。まだ彼の中では音楽が止んでいないのだ。息をのんで見守る聴衆。フライングの拍手一つあがらない。ヴィトマンは客席の喝采すら指揮してしまった。しかし決して嫌な指揮ではない。極上の音楽を聴いた。その充実感が確かに残っている。

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